演劇人であるということはなんとなく知っていた、なんかアングラ演劇とかそういう用語だけは知っていたが、それがなんなのかは知らなかった。いや、今も知らない。
しかし、詩も書く人だとは知らなかった。演劇はよくわからないが、詩なら少しは解るかもしれない、ということで早速詩集を買ってみた。
1935年生まれの人なので今生きていてもおかしくない世代だが、残念なことに1983年に47歳で亡くなっている。その間にもけっこう多くの詩集を残しているようで、今回紹介するハルキ文庫の「寺山修司詩集」にもいくつもの詩集から集められた沢山の詩と、それから短歌や俳句まで収められています。
ああ父知らず故郷知らず
殉死の母の顔知らず
われは恋知る歳となり
恥知る名知る誇り知る
祖国いづこと問はば問へ
我も母の子恋ぐるひ
(「愛国心がないことを悩んでいたら」最後の部分を引用)
強い言葉が七五調のきれいなリズムで迫ってくる。詩人としても強い力を持った人のようです。特に「恥知る名知る誇り知る」ってたたみかけるところが好きです。
ことばで
一羽の鴎を
撃ち落すことができるか
(「けむり」冒頭の部分を引用)
言葉にかける強い思いが伝わってきます。言葉にどれだけのことができるか?それを追い求める姿勢、まさにこれこそ詩人の姿だと思う。
そして、この詩集の最後は寺山修司の遺稿となった「懐かしの我が家」で終わる。
子供の頃、ぼくは
汽車の口真似が上手かった
ぼくは
世界の涯てが
自分自身の中にしかないことを
知っていたのだ
(「懐かしの我が家」最後の部分を引用)
この言葉で彼の詩人としての生涯が終わっている。調べてみると既にこの頃何度も入院しているようなので、自分の死を意識していたみたいで、そんな人間が最後に紡ぎ出したその言葉は、穏やかでどこか潔く、力強い言葉になっていて、まさに自分の人生を締めくくろうとしているように思える。
私達は最後にこんな言葉を残せるだろうか?
いや、ここまで立派でなくてもいいけど、自らを締めくくる言葉を作り上げることができるだろうか。私はこの作品と向き合ってそういう気分にさせられた。
素晴らしい詩人であり、良い詩集だと思う。文庫本だから値段も手頃なので、ぜひ読んでみるといいと思います。